長崎の端島にある軍艦島という場所に、行ったことはありますか?
かつて「不夜城」と呼ばれ、海中の石炭を採掘する採掘場だった軍艦島。日本初の鉄筋コンクリート造の建物が建てられた場所としても有名で、狭い埋立地には何棟もの高層住宅がひしめいていました。暗く長い 階段を上りきった屋上には幼稚園や神社があり、学校や市場、映画館や病院など、島の中には生活に必要なあらゆる施設が揃っていたといいます。
1974年の閉山によって住民は皆引き上げ、今はただ朽ちていくばかり。その佇まいに惹かれて軍艦島を訪れる人は後を絶ちません。私も数年前に軍艦島に上陸しました。
同じように軍艦島に惹かれる方に、ぜひお勧めしたい作品があります。眉月じゅんの「九龍ジェネリックロマンス」です。
舞台は、香港に存在した「九龍塞城」。もとは軍事要塞として建てられたこの建物は、後にどの国の法律も適用されない無法地帯と化しました。そのため大量の移民が押し寄せてバラックを建築。これが肥大化して巨大なスラム街が形成されたのです。
作品の主人公は、九龍要塞にある不動産会社で働く32歳の女性です。同僚の工藤という男性に恋をしているのですが、ある日、世界が大きく 反転する事実を知ってしまい、見えている景色が一変してしまうのです。
ストーリーも素敵ですが、私が惹かれるのはこの作品に流れる空気です。人があふれかえり、昼夜問わず雑多で混沌とした九龍塞城。それを工藤は懐かしさとともに「九龍に恋している」と表現するのですが、物語が進むと、この言葉にも切ない秘密が隠されていることが明らかになっていきます。
読後は、まるで自分も九龍塞城に旅をしていたような懐かしい感覚が残りました。そして、きっと軍艦島の暮らしもこんな感じだったのだろうな、とあの島にも心を馳せてしまうのです。
物語も大きく展開しはじめ、どこに向かうのか目が離せません。最新話は無料で公開されていますので、気になる方はぜひぜひ読んでみてください。